【第5回】グローバル化時代における日本の資源戦略

September 6, 2025

1980年代後半から現在に至るまで、日本の鉱業界は劇的な変化の波にさらされてきました。グローバル化の進展、新興国の台頭、環境問題の深刻化など、様々な要因が日本の鉱業と資源確保戦略に大きな影響を与え続けています。本記事では、この期間における日本の鉱業界の変遷と、直面してきた課題、そしてそれらへの対応策を紹介します。

バブル経済崩壊後の鉱業再編(1980年代後半〜1990年代)

1985年のプラザ合意は、日本の鉱業界に大きな転換を強カヌラコケケクシエ、アウツクいられることになりました。急速な円高は国内鉱山の採算を悪化させ、1986年から1991年のバブル経済期には、好景気を背景に多くの企業が電子材料事業など、新たな分野への参入を模索し始めます。

しかし、1991年のバブル崩壊は、日本経済全体に大きな影を落とし、鉱業界もまた過剰投資の清算と事業再構築を迫られることになりました。この厳しい状況下で、国内鉱山の閉鎖が加速し、1994年には秋田県の花岡鉱山が閉山。これにより、日本国内から稼働する銅鉱山は姿を消すという、歴史的な節目を迎えたのです。

このような厳しい環境下で、日本の鉱業各社は海外資源権益の確保と事業の多角化を進めました。1980年代後半からは、既存鉱山や開発段階のプロジェクトへの資本参加が主流となり、住友金属鉱山が1986年にモレンシー鉱山(米国)へ、三菱商事がエスコンディーダ銅山(チリ)への資本参加と開発資金を融資するなど、各社が積極的に海外へと活路を見出していきました。

1990年代には世界的な鉱山開発ブームが巻き起こり、日本企業も多くのプロジェクトに参画します。住友金属鉱山によるラカンデラリア鉱山(チリ)や、三菱マテリアルのハックルベリー鉱山(カナダ)など、世界各地で新たな鉱山が日本の技術と資本によって開発されていきました。

また、この時期には環境問題への関心が国際的に高まり、1988年に東北大学の南條道夫教授が「都市鉱山」の概念を提唱しました。都市鉱山とは、廃棄された電子機器などに含まれる有用な金属を再利用するという考え方です。そして1991年には「再生資源の利用の促進に関する法律(リサイクル法)」が制定され、鉱業各社は使用済み電子機器からのレアメタル回収技術の開発を本格化させました。

こうした変革の波の中で、日本の鉱業界は従来の資源採掘・製錬中心の事業から、高機能材料の開発や「都市鉱山」開発といった環境配慮型の高付加価値産業へと大きく舵を切りました。これにより、海外展開と国内のリサイクル技術向上という二つの強みを兼ね備えた、新たなビジネスモデルの基盤が確立されたのです。

グローバル化と資源メジャーの台頭(1990年代後半〜2000年代前半)

1990年代後半から2000年代前半にかけて、鉱業界のグローバル化は一気に加速しました。
2001年には、世界最大の鉱山会社であるBHPとBillitonが合併してBHP Billitonが誕生し、2007年にはイギリスの大手鉱山会社であるRio TintoがAlcanを買収するなど、業界再編の波が押し寄せます、潤沢な資金力と技術力を背景に、世界中の優良鉱山の権益を次々と獲得する「資源メジャー」と呼ばれる巨大企業が、その存在感を強めていきました。

こうして日本企業は、国際的な巨大企業との競争に直面することとなります。しかし、日本企業の多くは資源メジャーほどの規模や資金力を持ち合わせていなかったため、独自の戦略を模索する必要に迫られました。

2000年代初頭、資源メジャーの台頭に対し、日本は企業と政府が連携して多角的な対応を講じます。企業側では、2001年に三菱商事がBHPと石炭事業で提携を強化し、オーストラリアの石炭資産を約650億円で買収するなど、資源メジャーとの戦略的提携を進める動きが見られました。また、高度な技術力を活かし、ニッチ市場で独自の競争力を高める戦略も追求していくようになります。

一方、政府は積極的な資源外交を展開し、資源国との関係強化に努めます。2004年に設立された独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、日本企業の海外資源開発を支援する重要な役割を担い、官民一体となった資源確保戦略の要となりました。

新興国の台頭と日本の資源戦略の転換(2000年代中盤〜2010年代前半)

2000年代中盤から2010年代前半にかけて、中国をはじめとする新興国の急速な経済成長が、世界の資源需給に大きな影響を与えました。特に中国の産業発展による大規模な資源需要は、国際市場の資源価格を急騰させる要因となります。

この時期、ハイテク産業と環境技術の急速な発展により、レアメタルやレアアースの重要性が飛躍的に高まります。これらの希少資源は、スマートフォンや電気自動車、風力発電など、先端製品や環境技術に不可欠であり、日本の産業競争力を維持するうえで極めて重要な存在でした。

しかし、2010年の尖閣諸島沖漁船衝突事件を契機に中国がレアアースの対日輸出を制限したことで、日本は深刻な供給不安に直面します。

この危機を受け、日本政府は資源の安定確保に向けた取り組みを強化しました。この時期、以下のような多面的なアプローチが推進されます。

アプローチ 具体例
資源外交の強化 ベトナムとのレアアース共同開発プロジェクト開始(2011年)
技術開発の促進 レアアース不要のLED用蛍光体を愛媛大が実用化研究(2011年)
リサイクルの推進 「小型家電リサイクル法」制定によるレアメタル回収の本格化(2011年4月)

これらの多角的な取り組みにより、日本は資源の安定確保と供給源の多様化を図るとともに、資源利用の効率化にも成功しました。同時に、日本企業は高度な製造技術や環境技術を活かし、資源の高付加価値化や省資源化を進めることで、国際競争力の維持・向上を図ったのです。

持続可能性と技術革新の時代(2010年代後半〜現在)

2010年代後半から現在にかけて、鉱業界は持続可能性と技術革新という二つの大きな課題に直面しています。地球温暖化対策の世界的な機運が高まるなかで、鉱業においても環境負荷の低減が強く求められるようになりました。

日本の鉱業会社は、この地球規模の課題に対し、積極的に取り組んでいます。例えば、JX金属は銅精錬の過程で発生する二酸化硫黄を硫酸として回収・販売する技術を確立し、環境負荷の低減と経済性の両立を実現しました。また、三菱マテリアルは、セメント工場の高温焼成工程を活用し、石炭灰を含む多様な産業廃棄物を有効利用する技術を確立しています。これにより、廃棄物をセメント原料や熱エネルギーとして再利用し、循環型社会の実現に大きく貢献しています。

さらに、デジタル技術の急速な発展は、鉱業のあり方そのものを変えつつあります。AI、ビッグデータ、無人化などの先端技術を活用した「スマートマイニング」の概念が広まり、採掘や精錬のプロセスの効率化、そして作業の安全性の向上が図られています。

一方で、ESG投資(環境・社会・企業統治を重視する投資)の広がりにより、鉱山会社の社会的責任がこれまで以上に重視されるようになりました。日本企業も、環境保護、地域社会との共生、ガバナンスの強化などに一層注力しているのです。

まとめ

この40年余りの日本の鉱業界は、国内生産中心から海外展開へ、そして単なる資源確保から技術革新と持続可能性の追求へと、その役割を大きく変えてきました。特に、資源リサイクルや環境負荷低減技術においては、世界をリードする存在としての地位を確立しています。

脱炭素社会への移行や新たな資源ナショナリズムの台頭といった現代の課題に対し、日本の鉱業界は、その培ってきた技術力と環境への配慮を強みとして、これからもグローバルな舞台で重要な役割を果たしていくことが期待されます。

【出典】

日光市 足尾銅山に関するよくある質問
https://www.city.nikko.lg.jp/soshiki/10/1041/2_1/1231.html

JOGMEC 第4章 日本の海外銅資源開発の歴史
https://docs.google.com/document/d/1xOboT1CVMaou7m5A1pqSqh11v2pavOLnGLRdEx_BonI/edit

住友金属鉱山 住友金属鉱山の歴史
https://www.smm.co.jp/corp_info/story/05/

日本エネルギー経済研究所 豪州における石炭産業の再編
https://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/785.pdf

経済産業省 小型家電リサイクル法の概要
https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220823002/20220823002.html

JX金属 サステナビリティレポート2022
https://www.jx-nmm.com/sustainabilityreport/pdf/report2022_j_full.pdf

リオティントジャパン スマート・マイニング
https://riotintojapan.com/innovation/611/

【免責事項】

本書は情報提供のみを目的としており、事業計画や投資における専門家による財務・法務アドバイスの代替として使用すべきではありません。

本書に含まれる予測が特定の結果や成果につながることを保証するものではなく、記事の内容に基づいて全体的または部分的に行われた投資判断やその他の行動について、当メディアは一切の責任を負いません。

Copyright © AROUND JAPAN RV GoidMine All Rights Reserved.