中国人民銀行が8月に金65万オンスを購入、中国の大規模な金購入は価格上昇につながるのか?

September 8, 2026

※本記事は、Canadian Mining Report にて Ben McGregor 氏が執筆した内容を翻訳・再構成したものです。

20.2トンという1カ月の購入量だけでなく、22カ月連続で購入していることが重要です。一方、短期的な金価格は依然としてCPIやFRBの金融政策に大きく左右されます。中国人民銀行による金購入と短期的な価格変動は、分けて考える必要があります。

中国はなぜこれほど多くの金を購入しているのでしょうか。中国人民銀行(PBOC)による金購入は、金価格にどのような影響を与えるのでしょうか。

中国人民銀行は9月7日、8月にさらに65万トロイオンス(約20.2トン)の金を購入したと発表しました。これは2023年10月の74万オンス以来、月間として最大の公式購入量です。7月の64万オンスも上回り、金の購入は22カ月連続となりました。

これにより、中国人民銀行の金保有量は8月末時点で7,673万オンス、約2,387トンとなりました。公表された保有額は3,063億5,000万米ドルから3,500億8,000万米ドルへ増加しています。

ただし、この437億米ドルの増加分の大半は、8月に金価格そのものが大きく上昇したことによる時価評価額の増加です。65万オンスの追加購入だけによって保有額が437億米ドル増加したわけではありません。

では、中国による金購入は金価格をさらに押し上げるのでしょうか。中央銀行による継続的な金需要は価格を支える要因となりますが、中国人民銀行の1カ月分の購入量だけで金価格を予測することはできません。

2026年9月には、8月の米消費者物価指数(CPI)の発表と、9月15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)が控えています。直近では米雇用統計で16万2,000人の雇用増加が発表された後、金価格は一時1オンスあたり4,365米ドル付近まで下落し、その後4,430米ドル付近で推移しています。

中央銀行による金購入は金価格を下支えする要因ですが、短期的にはFRBの金融政策がより大きな材料となります。

また、本記事は「買うべき金鉱株」や「2026年の有望金鉱株」といった銘柄リストを提示するものではありません。中国国家外貨管理局(SAFE)が金準備のデータを更新したからといって、金鉱会社に直接資金が入るわけではありません。金鉱会社の収益を左右するのは、金価格と生産コストです。

数字を冷静に見る

65万オンスは約20.2トンです。一方、世界の年間金鉱山生産量は3,500トンを超えています。そのため、20トンを購入したからといって、「中国が金市場を買い占めている」と考えるべきではありません。

ただし、公的部門による金需要が大きく変動している2026年のなかでは、中国による8月の購入量は大きな数字です。

修正後のデータでは、2026年第1四半期の公的部門による金購入量は57トン、第2四半期は289トンでした。7月の世界の公的部門による純購入量は23トンで、中国が20トン、ポーランドが8トンを購入しています。

Kitcoによる集計では、中国が2026年に公表した金購入量は8月までに約80トンに達しています。7月までの累計は約60トンでした。

一方、公表ベースで2026年の金購入量が最も多いのはポーランドで、同国は700トンの保有目標を掲げています。中国は公表されている金保有量では世界6位です。

さらに、中国が保有する金は、3兆4,380億米ドルに上る外貨準備高の約8%にすぎません。米連邦準備制度(FRB)やドイツ連邦銀行などは、それを大きく上回る金を保有しています。

この差こそ、中国による金購入が今後何年も続く可能性を示す要因の一つです。中国は大量の金を購入しているものの、外貨準備に占める金の割合は、依然として一部の欧米諸国より低い水準にあります。

中国の購入ペースは一定ではありません。2月の購入量はわずかでしたが、3月には約16万オンス、6月には48万オンス、7月には64万オンス、そして8月には65万オンスへ増加しました。5月以降、2桁トン規模の購入が続いていることは、購入ペースが加速していることを示しています。

注目すべきなのは、中国人民銀行が金価格の下落時だけ購入しているわけではないことです。8月は金価格にとって1月以来最も強い月となりましたが、そのなかでも中国人民銀行は購入を続けました。つまり、価格が上昇している局面でも金を買い増しています。

ただし、中国人民銀行が公表する金準備高は、中国全体の金需要を示すものではありません。中国には宝飾品、金地金、ETF、上海市場のプレミアムなどから生じる大規模な民間需要も存在します。

香港や中国本土を経由する金輸入量は、需要が強い月には公式の購入量を大幅に上回ることがあります。そのため、20.2トンという数字はあくまで中国人民銀行が公表した公式準備高の増加分として捉えるべきであり、中国全体の金需要と考えるべきではありません。

中国はなぜこれほど大量の金を購入しているのか?

大きな理由の一つが、2022年以降に世界の中央銀行で意識されるようになった外貨準備の分散です。

ロシアの外貨準備が凍結されたことで、新興国の準備資産を管理する当局にとって、国債などの金融資産は、それが置かれている法制度や政治環境の影響を受けるという事実が改めて意識されるようになりました。

一方、金は他国政府の債務ではありません。そのため、中国にとって金保有を増やすことは、外貨準備を分散するとともに、制裁などの地政学的リスクに備える手段の一つとなります。

ただし、中国が米ドル建て資産を金に置き換えようとしているわけではありません。中国は依然として巨額のドル建て準備資産を保有しており、外貨準備に占める金の割合は約8%です。現時点では、金は米ドルの「代替」というよりも「ヘッジ」と考える方が適切です。

人民元の国際化をめぐる議論でも、他国の債務ではない準備資産を保有することには一定の意味があります。また、中国は世界有数の金生産国であり、国内にも大規模な民間の金市場があります。そのため、北京はロンドンなど海外市場だけに依存せず、公式の金保有量を積み増すことができます。

さらに、中国人民銀行が公表する金購入量と、現物市場から推測される中国の公的な金需要には差が生じる場合があります。

つまり、市場で語られる「中国の金購入」と、SAFEの統計に示される「中国人民銀行の金購入」は、完全に同じものではありません。

こうした動きを理解するために、複雑な陰謀を想定する必要はありません。中国の外貨準備に占める金の割合が依然として約8%にとどまるなか、長期的なドル資産への依存リスクを考えれば、金価格が1オンスあたり4,400米ドルであっても金の保有比率を引き上げるという判断には一定の合理性があります。

中国人民銀行の金購入が金価格に与える影響

中国人民銀行が購入した金は、実際に市場から吸収される需要です。しかし、それが翌週の金価格を直接決めるわけではありません。

中国人民銀行による金購入が中長期的な金価格に与える影響を考える場合、重要なのは、実質金利などの短期的な市場環境に左右されにくい継続的な買い手が存在することです。

Goldman Sachsによる2026年末の金価格予想である1オンスあたり4,900米ドルも、世界の公的部門による金需要が月平均約50トンで推移するとの想定に依拠しています。これは2022年以前の月平均約17トンを大きく上回ります。

中国による8月の20.2トンの購入は、この想定の大きな部分を占めます。

World Gold Council(WGC)が示す公的部門の金需要は、金価格が冬に5,594米ドル付近まで上昇した局面でも、真夏に4,300米ドル付近まで下落した局面でも、金市場を支える構造的な要因となってきました。

8月の20.2トンの購入は、金価格が月間で約10%上昇したにもかかわらず、中国人民銀行の買いが止まらなかったことを示しています。

一方、中国人民銀行による65万オンスの購入が今週の金価格に与える影響は限定的です。市場が中央銀行需要そのものを疑っていたのであればサプライズになった可能性がありますが、そうした状況ではありません。

短期的には、SAFEが公表した購入量よりも、CPIやFRBの利上げ確率の方が金価格を大きく動かす可能性があります。

したがって、20トンの購入を2026年末4,900米ドルという中長期的な金価格見通しの材料の一つとして考えることには一定の整合性があります。しかし、「中国が金を買ったから、金価格は金曜日までに4,700米ドルになる」といった単純な予測は適切ではありません。

では、中国による数年ぶりの大規模な月間購入は、金価格を押し上げるのでしょうか。

中央銀行による買いが存在しない場合と比べれば、金価格の下値を支える可能性があります。ただし、予想を上回るコアCPIの影響を打ち消せるわけではありません。

Goldman Sachsが6月に示したストレスシナリオでも、FRBが利上げを実施し、ヘッジ需要が後退した場合、年末の金価格は4,400米ドル付近になる可能性が示されています。

つまり、中国人民銀行による金購入は中長期的な下支え要因である一方、短期的な金融政策による価格変動を無効にするものではありません。

金投資の見通し:中央銀行需要とFRB

中国が金の購入をやめることを弱気シナリオの前提としていた投資家にとって、22カ月連続の購入はその想定に反する結果となりました。

一方、中国が毎月50トン規模の金を公表ベースで購入すると想定していたのであれば、8月の20.2トンはその水準には届きません。実際の状況は、こうした極端な見方の中間にあります。

2026年の金市場には、引き続き3つの重要な要因があります。中央銀行など公的部門による需要、欧米の金ETFへの資金流入、そしてFRBの金融政策です。

2026年第2四半期の公的部門による金需要は289トンとなり、第2四半期として過去最高を記録しました。一方、上半期全体では345トンにとどまり、2022年以来最も低い水準でした。

7月に公表された世界の公的部門による純購入量は23トンです。それに対し、中国だけで8月に20.2トンを購入しました。

これは中国の購入ペースが加速していることを示しますが、世界全体の中央銀行が同じペースで購入を加速していることを意味するわけではありません。次回のWorld Gold Councilのデータを確認するまでは、中国単独の動きとして捉える必要があります。

金鉱株も、中国人民銀行による金購入を材料に上昇する可能性があります。しかし、金鉱会社が中国人民銀行から20トン分の収益を受け取るわけではありません。受け取るのは、金価格上昇による恩恵です。

その恩恵が企業利益や株価上昇につながるかどうかは、AISC(全維持費)、ディーゼル価格、発行済み株式数などによって決まります。

そのため、「注目の金鉱株」という検索キーワードだけで企業を選ぶのではなく、金価格上昇が実際にその企業の利益やキャッシュフローにどれだけ反映されるかを見る必要があります。

また、中国の民間金需要と中国人民銀行による公的需要も区別する必要があります。

金価格が1オンスあたり4,400米ドルに達し、冬の高値局面ですでに宝飾品需要が弱まっているのであれば、中国の民間需要が減少する可能性があります。その一方で、中国人民銀行による公的な購入が増えることもあります。

これは矛盾ではありません。民間投資家と中央銀行という異なる買い手が、それぞれ異なる理由で行動しているためです。

今後、見通しを変える要因

現在の見方を変える可能性のある材料はいくつかあります。

中国人民銀行が22カ月連続で購入した後、月間購入量がゼロになる、あるいは金を売却すること。World Gold Councilが発表する四半期の公的部門需要が、2026年第1四半期の57トン程度まで再び低下すること。

また、中国人民銀行が金価格の下落局面でのみ購入し、4,700米ドル付近では買いを停止することや、米国の利上げサイクルによって中央銀行需要の効果が四半期を通じて打ち消されることも考えられます。

こうした動きが確認されれば、「中国の大規模な金購入が価格を押し上げる」という見方は弱まります。ただし、現時点で公表されているデータから、そのような変化はまだ確認されていません。

一方、強気シナリオの根拠となるのは、Goldman SachsやWorld Gold Councilが示してきた長期的な見方です。

外貨準備の分散は数年単位で進む可能性があります。また、中国政府が外貨準備に占める金の割合を8%で止めると表明したわけでもありません。

中国のような大規模な外貨準備を保有する国が、米国債などに大きく偏った準備資産の構成を徐々に変えていくのであれば、月20トン規模の購入が長期間続く可能性があります。

結論

中国人民銀行は2026年8月に65万オンス、約20.2トンの金を購入しました。これは2023年10月以来最大の月間購入量であり、金の購入は22カ月連続となりました。

これにより、中国人民銀行の金保有量は約2,387トンとなり、中国の外貨準備に占める割合は約8%となっています。

では、なぜ中国はこれほど多くの金を購入しているのでしょうか。

大きな理由の一つは、2022年以降、米ドルに偏った外貨準備の構成を徐々に分散させていることです。金は他国政府の債務ではなく、外貨準備の分散や地政学的リスクへのヘッジとして利用できます。

では、中国人民銀行による金購入は金価格を押し上げるのでしょうか。

重要なのは、翌日の金価格を動かす材料ではなく、数年間にわたって継続する可能性のある買い需要として考えることです。

中央銀行による需要は、金価格が4,300米ドルからさらに大幅に下落しなかった理由の一つを説明する材料にはなります。しかし、FOMCを前に金価格が4,900米ドルまで上昇することを保証するものではありません。

2026年の金価格を考えるには、中国だけでなく世界の公的部門による需要、ETFへの資金流入、そしてCPIやFRBの金融政策を見る必要があります。

「買うべき金関連株」という銘柄リストを探す前に、まず中央銀行が実際に何トンの金を購入しているのかを確認し、そのうえで今後の経済指標や金融政策の日程を見ることが重要です。

【重要なお知らせ】

本記事は情報提供および教育目的のみを意図したものであり、投資助言や、金、金鉱株、ETF、その他の金融商品の購入、売却、保有を推奨するものではありません。

中国人民銀行(PBOC)および中国国家外貨管理局(SAFE)の数値は、2026年9月7~8日付の公式発表および同時期の報道に基づくものであり、今後改訂される可能性があります。オンスからトンへの換算は概算値です。また、金価格予測を含む将来の見通しに関する記述には不確実性が伴います。

必要に応じて資格を有する専門家にご相談ください。著者および出版社は、本記事の内容に基づいて行われた行為について一切の責任を負いません。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。

著者:Ben McGregor

Ben McGregor氏は、Canadian Mining Reportで毎週更新される「Weekly Roundup」を執筆し、金属・鉱業セクターを分析しています。金、銅、ウランなど幅広い鉱種を取り上げ、市場動向やTSXV上場のジュニア鉱山会社について、データに基づいた分析を提供しています。

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