※本記事は、Canadian Mining Report にて Ben McGregor 氏が執筆した内容を翻訳・再構成したものです。
米国は2025年1月以降、重要鉱物分野で総額400億米ドルを超える約160件の取引に署名または承認しています。しかし、中国は依然としてレアアースをはじめとする重要鉱物の加工・精製で圧倒的なシェアを占めています。巨額の投資が実際の生産能力につながり、中国に依存しない加工・精製・磁石製造までのサプライチェーンを構築できるのかが今後の焦点です。
米国は重要鉱物のサプライチェーン構築に巨額の資金を投入しています。一方、中国ではすでに大規模な加工・精製施設が稼働しています。
2026年9月14日のReutersの報道によると、米国は2025年1月以降、重要鉱物分野で総額400億米ドルを超える約160件の取引に署名または承認しました。
MP Materials、Lithium Americas、USA Rare Earthなどへの出資も行われています。
さらに「Project Vault」では、米国輸出入銀行による100億米ドルの融資と約20億米ドルの民間資金を組み合わせ、重要鉱物の民生用備蓄を構築する計画です。
オーストラリアもガリウム、磁石用金属、グラファイト、タングステン、ニッケルなどに数十億米ドルを投じています。サウジアラビアとの鉱物加工をめぐる協議も、こうした中国依存の低減を目指す取り組みの一つです。
しかし、国際エネルギー機関(IEA)のデータを見ると、中国の優位性は依然として大きいことがわかります。
世界のレアアース精製に占める中国のシェアは、米国やマレーシアで生産能力が増えたことで、2023年の90%超から2025年には約85%へ低下しました。
一方、レアアースを除くその他の重要鉱物では、中国の精製シェアの平均は70%から72%へ上昇しています。
さらにIEAの「Global Critical Minerals Outlook 2026」では、世界で計画されているレアアース精製施設がすべて予定通り稼働したとしても、中国のシェアは2035年時点で約70~73%にとどまるとしています。
つまり、米国による巨額投資が中国にとって本当の脅威となるかどうかは、投資額そのものでは決まりません。
欧米の工場からレアアース酸化物、金属、磁石が実際に競争力のある価格で出荷されるようになれば、中国依存を低下させることができます。
しかし、巨額の資金を投じて工場を建設しても、原料となる精鉱が最終的に中国へ送られて加工されるのであれば、サプライチェーンの構造は大きく変わりません。
本記事では、米国の重要鉱物戦略がどこまで進んでいるのか、そして中国が持つ加工・精製分野での優位性を変えられるのかを見ていきます。
現在の米国の重要鉱物政策は、単一の政策や法案によるものではありません。
政府による融資や出資、価格支援、オフテイク契約、備蓄、同盟国との協力など、複数の政策を組み合わせています。
例えば、工場が残りの建設資金を調達しやすくするため、政府などが一定量の購入を保証するオフテイク契約が活用されています。
価格支援についても議論されており、CSISの磁石用金属政策に関する分析では、1キログラムあたり110米ドルの最低価格が取り上げられています。
Project Vaultは、輸出規制などによって供給が停止した場合に備えて、重要鉱物を備蓄するための取り組みです。
また、米国内だけでなく、オーストラリア、日本、マレーシア、サウジアラビアなどとの協力を通じて、採掘と最終製品の間にある加工・精製工程を中国以外にも構築しようとしています。
これは本格的な産業政策といえます。
ただし、鉱山や精製施設の建設には何年もの時間がかかります。また、政権が変わっても同じ政策を継続できるかという問題もあります。
Industrial Infoによると、現在建設中の世界の重要鉱物関連設備投資は約1,830億米ドルで、そのうち中国が約570億米ドル、米国が約250億米ドルを占めています。
米国が投資を増やす一方、中国も設備投資を続けています。そのため、米国が資金を投入しているだけで、中国との差が自動的に縮小するわけではありません。
中国の重要鉱物分野における強さは、鉱山だけにあるわけではありません。
レアアースの分離・精製、球状黒鉛、ガリウム、ゲルマニウム、LFP(リン酸鉄リチウム)正極材、そしてこれらの施設を運営する熟練人材まで、採掘後の工程に大きな強みを持っています。
2025年のIEA関連データでは、中国はリチウム、コバルト、リン酸塩、マンガン、グラファイトの加工・精製で70~95%のシェアを占めています。
また、LFP正極材の約98%、バッテリーセルの約80%を生産しています。重希土類元素の分離ではほぼ独占に近い状態にあり、永久磁石でも90%を超えるシェアを持っています。
一方、鉱山生産は加工・精製ほど集中しておらず、多くの重要鉱物で中国のシェアは約60%です。
つまり、中国以外で鉱物を採掘できたとしても、加工・精製を中国に依存していれば、サプライチェーンの中国依存を解消したことにはなりません。
中国は輸出規制を実際に利用できることも示しています。
2025年の輸出規制によって、重要鉱物の供給が政策判断によって停止する可能性があることを各国の企業は認識しました。
これが米国や同盟国による投資拡大の大きな理由の一つです。
また、中国はMP Materialsを含む米国企業を輸出管理の対象にも加えています。
資金を投入して鉱山を開発するだけでは、中国への依存を低下させることはできません。加工・精製まで含めたサプライチェーンを構築できるかが重要です。
なお、銅の供給問題とは分けて考える必要があります。
中国は世界の銅精製でも40%以上を占めていますが、銅市場では鉱山供給や関税が大きな問題となっています。
一方、レアアースなどの磁石用金属では、分離・精製技術や設備そのものが供給上のボトルネックです。
同じ「重要鉱物」であっても、サプライチェーン上の課題は異なります。
本当の意味でサプライチェーンが転換期を迎えたと判断するには、大きく3つの条件を確認する必要があります。
1つ目は、中国に依存せず稼働できる分離・精製施設です。
欧米の施設が計画上の生産能力を実際に達成し、中国企業とのオフテイク契約に依存せずレアアース酸化物を販売できる必要があります。
2つ目は、磁石の製造能力です。
分離・精製したレアアース酸化物を使い、自動車や産業機器などに使用できる品質の磁石を生産する必要があります。
3つ目は、中国の供給増加にも耐えられる価格競争力です。
欧米で新たな供給網を構築しても、中国が供給量を増やして価格を下げた際に採算が取れなくなれば、事業を継続できません。
IEAの2035年までのシナリオでは、世界でレアアース精製能力の増強が進んだ場合でも、中国が依然として大部分を占めると予想されています。
つまり、現在起きているのは中国依存からの完全な脱却ではなく、中国への集中度を徐々に下げていく動きと考える方が適切です。
米国はすでにレアアースの鉱山生産で世界第2位です。
それでも長年、米国で採掘された精鉱の一部が中国へ送られてきたのは、米国内に十分な分離・精製能力がなかったためです。
そのため、米国の重要鉱物戦略で重要なのは、新たな鉱山を増やすことだけではありません。
採掘と最終製品の間にある加工・精製という「中流工程(ミッドストリーム)」を構築することが中心的な課題です。
リサイクルや代替材料によって一部の需要を補うことはできますが、短期間で高性能磁石などの需要すべてを代替することは困難です。
重要鉱物市場を見る際には、発表された設備投資額だけでなく、実際の生産量や中国の市場シェアがどのように変化しているかを確認する必要があります。
レアアース鉱山会社と、レアアースを加工して磁石を製造する企業は、同じ種類の投資対象ではありません。
カナダやオーストラリアにレアアース鉱山があったとしても、それだけでは米国の分離・精製施設や磁石工場の代わりにはなりません。
採掘だけを行う重要鉱物企業は、最終的に別の企業の加工施設へ原料を供給する必要があります。
現在、政策資金が重点的に投入されているのは、この加工・精製工程です。
ただし、加工・精製は技術的にも難しく、想定したフローシートで十分な回収率や品質を達成できなければ、大きな損失につながる可能性があります。
カナダの上場鉱山会社には、ニッケル、銅、ウラン、レアアースなどを手掛ける企業があります。
しかし、カナダで採掘された精鉱であっても、中国やマレーシアの加工・精製施設を必要とするのであれば、中国を中心とした既存のサプライチェーンから完全に独立しているわけではありません。
単に鉱石や精鉱を採掘する場所が変わっただけで、加工工程への依存が残っている可能性があります。
そのため、重要鉱物関連株を調査する際には、「どこで採掘するのか」だけでなく、「どこで加工・精製し、誰が最終製品を購入するのか」まで確認することが重要です。
政府との供給契約や資金支援があるからといって、サプライチェーン全体が完成していることを意味するわけではありません。
米国が数十億ドルを投入しても、重要鉱物のサプライチェーン構築には多くのリスクが残ります。
鉱山や加工施設の許認可には長い時間がかかる可能性があります。地域社会との対立、試薬コスト、モナザイト処理に伴う放射性残留物なども課題です。
政府による価格支援があっても、政権交代によって政策が変わる可能性があります。
また、関連プロジェクトの完成が数年遅れれば、サプライチェーン全体の稼働開始も遅れます。
備蓄している鉱物の仕様が実際の工場で必要とされるものと一致しなければ、その在庫を有効活用できない可能性もあります。
中国によるLFP正極材などへの輸出規制が、西側諸国のバッテリー生産へ影響を与える可能性もあります。
さらに、IEAが示す2035年のシナリオは、計画されている施設が予定通り稼働することを前提としています。実際には、すべてのプロジェクトが予定通り進むとは限りません。
中国の重要鉱物加工産業は、数十年にわたる設備投資、安価な電力、産業政策、熟練した人材の蓄積によって構築されてきました。
米国はその差を今後5~7年程度で縮めようとしています。
そのため、資金を投入するだけで中国と同規模のサプライチェーンを短期間で構築することは容易ではありません。
米国は2025年1月以降、重要鉱物分野で総額400億米ドルを超える取引を進め、中国依存を減らすための大規模な投資を行っています。
しかし、中国は依然としてレアアースをはじめとする重要鉱物の加工・精製で圧倒的なシェアを占めています。
IEAの見通しでは、世界各地で計画されているレアアース精製施設が予定通り稼働したとしても、中国は2035年時点で約70~73%のシェアを維持する可能性があります。
そのため、400億米ドルという投資額だけを見て、重要鉱物のサプライチェーンがすでに転換期を迎えたと判断することはできません。
重要なのは、投資された資金が実際の加工・精製能力につながり、中国に依存せず生産されたレアアース酸化物や磁石が市場へ継続的に出荷されるかどうかです。
現在の巨額投資は、中国依存を低下させるための重要な一歩といえます。ただし、本当の転換点となるのは、契約件数や投資額が増えたときではなく、中国以外のサプライチェーンから実際に製品が大量出荷されるようになったときです。
【免責事項】
取引件数、金額、市場シェアの推定値は、2026年9月14日付のReutersの報道、IEAの「Global Critical Minerals Outlook 2026」、およびCSIS、Industrial Infoなどの関連する公開分析に基づいています。
株式およびプロジェクトの一覧は変更される可能性があります。企業名は例示であり、推奨ではありません。
本記事は投資助言ではなく、いかなる証券の売買も推奨するものではありません。必要に応じて資格を有する専門家にご相談ください。
著者および発行者は、本記事の内容に基づいて行われた行為について一切の責任を負いません。
Ben McGregor氏は、Canadian Mining Reportで毎週更新される「Weekly Roundup」を執筆し、金属・鉱業セクターを分析しています。金、銅、ウランなど幅広い鉱種を取り上げ、市場動向やTSXV上場のジュニア鉱山会社について、データに基づいた分析を提供しています。