※本記事は、Canadian Mining Report にて Ben McGregor 氏が執筆した内容を翻訳・再構成したものです。
2025年の世界の金生産量上位20鉱山を見ると、世界の一次供給を支える主要鉱山の構造と、その変化が鮮明に表れています。
米国のネバダ・ゴールド・マインズは、前年比3%減となったものの259万5,000オンスを生産し、世界最大の金生産拠点としての地位を維持しました。同鉱山はBarrick MiningとNewmontによる巨大な合弁事業です。
一方、大きな変化があったのがインドネシアのGrasberg(グラスバーグ)鉱山です。Freeport-McMoRanが運営する同鉱山の金生産量は前年比50%減少し、前年のランキング上位から5位まで後退しました。
対照的に、チリのGold Fieldsが運営するSalares Norte(サラレス・ノルテ)鉱山は、商業生産への立ち上げを完了し、生産量が前年比1,059%増加しました。
カナダでは、Agnico Eagle Minesが運営するDetour Lake(デツアー・レイク)鉱山とCanadian Malartic(カナディアン・マラティック)鉱山が、それぞれ8位と11位に入りました。2鉱山を合わせた生産量は133万6,000オンスです。
地政学的リスクや操業停止、新規プロジェクトの立ち上げなどによって世界の金供給が変化するなか、この2鉱山が世界トップ20に入ったことは、カナダの主要金鉱山の規模と安定性を示しています。
2025年のランキング上位には、複数の鉱山から構成される大規模な複合施設や、世界有数の単一鉱山が並んでいます。
上位3鉱山だけで560万オンス以上を生産しています。トップ20全体でも世界の鉱山生産量の大きな割合を占めており、大規模かつ長寿命の鉱山が依然として金の一次供給を支配していることが分かります。
Nevada Gold Minesは、依然として他の金鉱山とは一線を画す規模を誇ります。
2019年にBarrickとNewmontがネバダ州に保有していた資産を統合して設立された同事業は、複数の露天掘り・坑内掘り鉱山から構成されています。
2025年の生産量259万5,000オンスは、2位のMuruntauを約90万オンス上回っています。前年比3%の減少も構造的な問題ではなく、通常の採掘順序や鉱石品位の変動によるものです。
Barrickが61.5%を保有して操業を担当し、Newmontが38.5%を保有しています。
巨大な事業規模によって操業の柔軟性とコスト面での優位性を確保しており、これに匹敵する金鉱山は世界でも多くありません。
Nevada Gold Minesが引き続き世界最大の生産拠点となっていることは、充実したインフラ、熟練労働者、確立された許認可制度を備えたTier 1地域の戦略的価値も示しています。
2025年のランキングで最も劇的な変化を見せたのがGrasbergです。
金生産量は2024年の186万1,000オンスから、2025年には93万7,000オンスへ半減しました。
主な原因は、Grasberg Block Cave坑内掘り鉱山で発生した大規模な操業トラブルです。泥流事故によって長期間の操業停止を余儀なくされ、その後、段階的に生産を再開しました。
Freeport-McMoRanは今後の段階的な回復を見込んでおり、2026年以降は操業率が高まると予想しています。
しかし、2025年の生産量は、世界最大級で高度な技術を持つ鉱山であっても、地質・操業上のリスクを避けられないことを示しています。
Grasbergの減産によって他の鉱山がランキングを上げるとともに、世界市場から年間数十万オンス規模の供給が失われました。
カナダからトップ20に入ったのは、Agnico Eagleが運営する2つの鉱山です。
オンタリオ州北東部に位置するDetour Lakeは69万3,000オンスを生産し、前年比3%増で世界8位となりました。埋蔵量と生産量の両面でカナダ最大級の金鉱山です。
露天掘りで操業され、長い残存鉱山寿命を持ち、継続的な最適化も進められていることから、Agnico Eagleのポートフォリオを支える重要な資産となっています。2025年の緩やかな増産は、安定した事業地域における堅調な操業を反映しています。
ケベック州Abitibi地域にあるCanadian Malarticは64万3,000オンスを生産しました。前年比では2%減少したものの、世界11位を維持しています。
かつてカナダ最大の露天掘り金鉱山だった同鉱山は、主要な露天掘り鉱床の枯渇が近づくなか、坑内掘りからの生産比率を高める段階へ移行しています。
それでも、大規模なインフラと探鉱による成長余地を備えた、長寿命で質の高い資産であることに変わりはありません。
この2鉱山は、カナダの鉱山が世界最大級の鉱山と十分に競争できることを示しています。政治的な安定性、明確な規制制度、熟練した労働力、資本市場へのアクセスといったカナダの強みは、他地域で操業や地政学上の問題が発生した際、より鮮明になります。
2025年には、生産量を大幅に増やした鉱山も複数ありました。
特に目立つのがSalares Norteです。2024年の4万4,000オンスから2025年には50万5,000オンスへ増加し、前年比1,059%という大幅な伸びを記録しました。
これは建設と生産立ち上げが完了し、2025年に商業生産へ移行したことによるものです。チリの高地に位置する同鉱山は、過去10年間でも重要な新規金鉱山開発の一つであり、生産開始後すぐに世界トップ20へ入りました。
Blagodatnoyeは47%増の73万6,000オンス、キルギスのKumtorも47%増の59万2,000オンスとなりました。
このほか、マリのFekolaは35%増、ペルーのYanacochaは45%増、エジプトのSukariは26%増となっています。
こうした増産の背景には、鉱石品位の上昇、処理量の拡大、回収率の改善、過去の操業上の制約からの回復などがあります。
一方、NewmontのAhafoは17%減少しました。成熟した鉱山の一部でも、通常の採掘順序などによる1桁台の減産が見られています。
世界の大規模金生産は、少数の企業に集中しています。
BarrickはNevada Gold Mines、Kibali、Pueblo Viejoなど複数のトップ20鉱山に関与しています。
NewmontもNevada Gold Minesへの出資に加え、Ahafo、Lihir、Boddington、Yanacochaを保有しています。
Polyusはロシアの2鉱山、Agnico Eagleはカナダの2鉱山がランクインしています。Freeport-McMoRan、Kinross Gold、B2Gold、Gold Fields、AngloGold Ashantiも、それぞれ大規模鉱山を保有しています。
つまり、少数の大手鉱山会社における操業実績、資本配分、地政学的リスクが、世界の金鉱山供給に大きな影響を与える構造になっています。
世界トップ20の地理的な分布を見ると、事業地域によるリスクと安定性の違いも表れています。
米国、カナダ、オーストラリアには、安定した大規模鉱山が存在します。中央アジアとロシアも、長寿命で生産量の多い鉱山を複数保有しています。
一方、西・中央アフリカ、中央アジア、中南米の一部も世界の金供給で重要な役割を果たしていますが、政治、安全保障、操業面ではより高いリスクを抱えています。
インドネシアのGrasbergの事例は、資源が豊富で長年操業してきた大規模鉱山であっても、突然の生産停止に直面する可能性があることを示しています。
投資家にとっては、安定した鉱業地域を重視しながら事業地域を分散する重要性が改めて示されています。一方、より複雑な地域に高品位・低コストの鉱床が存在することも考慮する必要があります。
Detour LakeとCanadian Malarticが世界トップ20に入ったことは、カナダの金鉱業にとって大きな強みです。
Agnico Eagleが世界最大級の金鉱山をカナダ国内で2カ所運営していることは、同社の技術力だけでなく、カナダに存在する大規模金鉱床の質の高さを示しています。
近年の金価格上昇は、こうした鉱山から大きなフリーキャッシュフローを生み出し、配当、債務削減、再投資を支えています。
ただし、ランキングを見ると、世界最大級の生産規模をカナダが独占しているわけではありません。特にNevada、ウズベキスタン、ロシアには巨大な金生産拠点があります。
そのため、最大規模の金生産会社への投資を求めるカナダの投資家は、国外にも目を向ける必要があります。一方、地政学的リスクの低さや透明性の高いガバナンスを重視する場合には、カナダをはじめとするTier 1地域の鉱山が有力な選択肢となります。
Grasbergの大幅減産とSalares Norteの急成長は、プロジェクトの実行力と操業の安定性がいかに重要であるかも示しています。
大規模プロジェクトの立ち上げに成功すれば企業の生産量を一気に押し上げられる一方、主要鉱山で予期せぬ操業停止が起きれば、年間数十万オンスもの供給が失われる可能性があります。
世界の金鉱山供給は、比較的少数の大規模鉱山に集中しています。
2025年のランキングを見る限り、今後の供給量は、既存の大規模鉱山の最適化、新規プロジェクトの立ち上げ、そして操業停止を経験した鉱山の回復などによって、徐々に増加していくと考えられます。
一方、事業地域のリスク、巨額の開発資金、長期化する許認可などによって、どの新規プロジェクトが将来的に世界トップ20へ入るのかが左右されます。
カナダの生産会社にとっては、Detour LakeやCanadian Malarticといった中核資産で安定した操業を続けることに加え、安定した地域での探鉱・開発を通じて規律ある成長を進めることが重要です。
国外への投資についても、リスクを考慮したうえで十分なリターンが期待できる場合には、選択的に進めることになります。
カナダの金鉱株を追う投資家にとっては、こうした主力鉱山が世界の競合鉱山と比較してどのようなパフォーマンスを示すのか、そして経営陣が金価格上昇によって生まれた多額のキャッシュフローをどのように配分するのかが重要になります。
2025年の世界トップ20は、単なる生産量ランキングではありません。世界の主要な金供給源がどこにあり、どの企業がそれらを支配し、地質、操業、地政学的な問題によって状況がどれほど急速に変化するのかを示しています。
カナダから2鉱山がランクインしたことは、同国が依然として世界の金生産で重要な役割を果たしていることを示しています。それは地質的な優位性だけでなく、鉱山技術と制度的な安定性にも支えられています。
【免責事項】
本記事は情報提供および教育のみを目的としており、投資助言、証券の購入・売却・保有の推奨、または将来の生産量や財務実績を予測するものではありません。
鉱業事業には、技術、操業、財務、地政学などに関する重大なリスクがあります。本記事に記載された生産量は、公表データおよび業界集計データに基づいており、今後修正される可能性があります。
投資判断を行う前に、ご自身で十分な調査を行い、必要に応じて資格を持つ専門家へ相談してください。過去の実績は将来の結果を保証するものではありません。
Ben McGregor氏は、CanadianMiningReport.comで「Weekly Roundup」を執筆し、金属・鉱業セクターに関する分析を行っています。
金、銅、ウランなど幅広い鉱種を扱い、データに基づいた視点と投資機会を見極める分析を組み合わせながら、特にTSXV(トロント・ベンチャー取引所)に上場するジュニア鉱山企業を中心に市場動向を発信しています。