近年、EV(電気自動車)の普及が世界的に進む中で、電池材料として使用されるニッケルの重要性が急速に高まっています。ニッケルは、EV用リチウムイオン電池の性能や航続距離を左右する重要な金属であり、各国が戦略的に確保を急いでいます。
しかし現在のニッケル市場では、中国やインドネシアへの供給依存リスクに加え、製錬工程に伴うCO₂排出量の高さといった課題も浮き彫りになっています。単に埋蔵量があるだけでなく、これからは「安定的に、低炭素で、電池グレードのニッケルを供給できるか」が求められている時代です。
このような状況のなかで、日本の政府機関であるJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)・トヨタとパナソニック合弁会社であるPPES(プライムプラネットエナジー&ソリューションズ)・非鉄金属大手の住友金属鉱山は、カナダのFPXニッケル社(以下、FPX社)との協力関係を構築しています。
今後は、カーボンニュートラル社会の実現に向けた電池材料向けニッケル供給網の構築が重要になってきますが、当事者であるFPX社のCEOは、この提携と市場環境をどのように見ているのでしょうか。
GoldMineは、FPX社CEOであるマーティン・トゥレンヌ氏に、「日本との協力関係」「低炭素ニッケルの強み」「FPX社の将来像」についてお話を伺いました。
【プロフィール】

FPX Nickel Corp. President, CEO and Director
マーティン・トゥレンヌ(Martin Turenne)
KPMGおよびメタネックスでの勤務を経て、2012年から2015年にかけて First Point Minerals Corp(現FPX社)にてCFOに就任。その後FPX社に参画し、財務・経営の両面から事業戦略を統括。2015年12月に同社CEOに就任。
写真提供:FPX Nickel Corp.
──日本政府や企業がニッケル資源の提携先としてFPX社を選んだ理由をどのように分析していますか?
マーティン:1つ目の理由として、当社の主力プロジェクトであるバプティスト・プロジェクトは極めて魅力的な案件であることが挙げられます。バプティスト・プロジェクトは、高い利益率・長い鉱山寿命・大規模かつ低炭素という特性を持つ可能性があります。
さらに、柔軟性に優れている点も大きな特徴です。ステンレス鋼産業向けにニッケル品位60%の高品位精鉱を直接供給することも可能ですし、バッテリー材料サプライチェーン向けに電池用硫酸ニッケル・コバルト沈殿物・銅精鉱へと精製することも可能です。
2つ目としては、ブリティッシュ・コロンビア州およびカナダが、安定した民主主義国家であり、確立された法制度と世界最高水準の環境規制を備えていることが挙げられます。
これら2つの要因、すなわちバプティスト・プロジェクトの収益性の高い事業構造と、安定した操業環境によって、当社は魅力的なパートナーになっていると考えています。
ニッケルは、日本のステンレス鋼産業および自動車産業にとって極めて重要な金属です。
日本のパートナー企業は、将来のために安定的かつ長期的なニッケル供給源を確保する重要性を認識しています。
── FPX社が世界最低クラスの低炭素ニッケルを達成できている理由を教えてください。
マーティン:ブリティッシュ・コロンビア州に位置するバプティスト鉱床で生産されるニッケルは、世界で最も低い炭素強度を持つニッケルの一つになると考えています。
当社が他のニッケル企業よりも低いCO₂排出量を実現できている背景には、主に2つの理由があります。
1つ目は、カナダの公営電力会社である「BCハイドロ」が供給するクリーン電力を利用できる点です。BCハイドロの電力は、水力発電を中心に98%以上が再生可能エネルギーで構成されています。
2つ目は、鉱物そのものの性質です。バプティスト鉱床には、アワルアイト(awaruite)と呼ばれる、ニッケルと鉄からなる金属鉱物があります。アワルアイトは硫黄含有量が非常に少なく、従来の製錬プロセスを経る必要がありません。つまり製錬工程をより簡素化できるため、CO₂の排出を大きく削減できます。
これらの要因により、バプティスト鉱床は非常に低炭素なニッケル生産を可能にしています。
──パナソニックは、EVに使われるニッケルの量を2030年までに従来の半分にする目標を掲げていますが、EV業界で進む「ニッケル使用量削減」の技術動向について、FPX社はどのように見ていますか?
マーティン:EVバッテリー分野がニッケル生産者にとって大きな機会であることは間違いありませんが、同時に、バッテリーメーカーが効率向上を目指すのは自然な流れだと思います。
重要なのは、ニッケルが電気自動車や家庭用蓄電池など、現代のエネルギー社会を支える中核素材だという点です。この分野は、低炭素経済への移行とともに、今後数十年にわたって大きな成長が見込まれています。
ニッケルの本質的な特性の一つはエネルギー密度が高い点です。エネルギー密度が高いと、ニッケル系バッテリーは航続距離が長く、充電速度にも優れます。このような性能面の強みから、ニッケルは高性能バッテリーに不可欠な素材です。
また、ニッケルは数千種類の合金、数万種類の用途に使われています。キッチン用品から医療機器、ジェットエンジンに至るまで、ニッケルとステンレス鋼は私たちの日常生活に欠かせない素材です。ですので、ニッケルの需要は今後も長期的に需要が続くと考えられます。
──ニッケル価格が長期的に低迷した場合、プロジェクトへの影響と対応策をどのように考えていますか?
マーティン:ニッケル価格が長期的に低迷しているのは事実であり、当社のような企業にとって逆風であることは否定できません。
一方で、ニッケル生産の大半を占めるインドネシアが、2026年にはニッケル生産を削減する可能性を示唆している点には一定の期待があります。
また当社は、大規模な民間投資家が株主として参画しており、カナダ政府からの支援も受けてきました。将来的には、カナダの低炭素ニッケルに対して、下流の顧客がプレミアム価格を支払う可能性があると考えています。
──下流の顧客がプレミアム価格を支払う可能性があると考える理由は何でしょうか?
マーティン:下流の顧客がプレミアムを支払うようになると考える根拠には、大きく分けて2つの潮流があります。
1つ目は、気候変動に対する世界的な取り組みの継続です。短期的な排出削減と、長期的な低炭素経済への移行は世界的な至上命令となっています。
EU(欧州連合)が導入した「炭素国境調整措置(CBAM)」は、CO₂排出の多い国からの輸入品に追加コストを課す仕組みです。これは環境規制の厳しい国の産業が不利にならないようにするための制度で、「どこで、どのように作られた製品か」が重視される時代になったことを象徴しています。つまり、低炭素な資源から調達することは、製品やエネルギーシステム全体のCO₂排出量を根本から下げることにつながります。
2つめに挙げられるのが、地政学的緊張の高まりです。ロシアや中国の強硬な姿勢を受け、民主主義各国は重要鉱物のサプライチェーンの安全性を見直しています。昨今の不安定さを増す世界において、日本や欧州の顧客は、カナダのような安定した「法の支配」に基づく民主主義国家からの確実な供給に対し、プレミアム価格を支払う用意があると私たちは期待しています。
もしプレミアム価格が実現すれば、当社のバプティスト・プロジェクトで生産・販売されるニッケルは、さらに高い利益率を生み出すことになります。高い利益率は、投資家にとってプロジェクトをより魅力的なものにし、結果として当社の資本コストを低下させる(より有利な条件で資金調達ができる)可能性があると考えています。
──現在、FPX社が直面している最も大きな課題は何でしょうか?また、課題に対してどのような取り組みをしているのか教えてください。
マーティン:カナダにおける資源プロジェクトにおいて、最も重要な課題の一つは、現地の先住民族の同意取得と、近隣コミュニティからの社会的受容の確保です。カナダでは、資源開発にあたって先住民族の権利が法律で強く保護されています。そのため、十分な協議や合意形成をせずに開発を進めると、訴訟や抗議活動によってプロジェクトが長期停止するリスクがあります。
FPXはこの点において、バプティスト・プロジェクト周辺の先住民族コミュニティに対し、早期から段階的かつ意義のある関わりを続けてきた長い実績があります。
具体的には、体系的な対話の場を設けて相互理解を深めたり、彼らの意見を鉱山設計や環境保全計画に直接取り入れています。さらに、コミュニティ投資プログラムにより、地域社会の生活の質を向上させる活動への寄付も行っています。
例に挙げた取り組みにより、現在はプロジェクトに対する幅広い支持を得るられているため、今後の開発に不可欠な環境アセスメントや許認可プロセスを円滑に進めるための強力な基盤となっています。
──FPX社の長期的なゴールとして、どのような将来像を想定していますか?
マーティン:FPX社の長期ビジョンは、世界で最も重要なアワルアイト生産者になることです。
アワルアイトは、1885年にニュージーランドのアワルア湾で初めて確認された、金属ニッケル・鉄鉱物です。当社のビジョンは、世界で最も進んだアワルアイト・プロジェクトであるバプティスト・プロジェクトを前進させることによって実現されます。
環境認可取得後、建設段階へ進む際には、鉱業および下流産業の大手企業との何らかのパートナーシップが含まれると考えています。
同時に、JOGMECをはじめとする日本政府との協力のもと、積極的なグローバル探鉱活動も継続していきます。つまり、バプティスト・プロジェクトを前進させながら、日本と協力して次の大規模アワルアイト鉱床を探すということです。
さらに今後数年以内には、カナダ国内での電池用硫酸ニッケル生産を目的とした、アワルアイト専用精錬所の構想についても検討していく予定です。
──今回、日本企業や政府とパートナーシップを結んだ中で、日本の投資家や金属資源分野に携わる方々に向けて、伝えたいメッセージがあれば教えてください。
マーティン:日本の皆さまに最もお伝えしたいメッセージは、ブリティッシュ・コロンビア州およびカナダには、日本の産業と繁栄を支え、安全保障を強化するための資源が十分にあるということです。
私たちは、世界で最も厳格なESG(環境・社会・ガバナンス)基準に基づき、「正しい方法」で資源を生産できます。同時に、十分にコスト競争力を持たせることも可能です。
上記の点において、日本とカナダはまさに理想的なパートナーであると確信しています。
※本インタビューは英語で行われた内容を、日本語に翻訳・編集しています。文意を損なわない範囲で再構成しています。
【免責事項】
本書は情報提供のみを目的としており、事業計画や投資における専門家による財務・法務アドバイスの代替として使用すべきではありません。
本書に含まれる予測が特定の結果や成果につながることを保証するものではなく、記事の内容に基づいて全体的または部分的に行われた投資判断やその他の行動について、当メディアは一切の責任を負いません。