世界の鉱業投資において、カナダのTSX(トロント証券取引所) とTSX-V(TSXベンチャー取引所) は、多くのグローバル鉱業企業がこれらの取引所に上場しており、世界中の鉱山会社の約40%がカナダの証券市場に集結しています。
本記事では、カナダの証券市場の構造や特徴、世界の鉱業企業がなぜこの市場を選択するのか、そして日本人投資家がこれらの市場にどのようにアクセスできるかについて解説します。
カナダの証券市場は、トロント証券取引所 (TSX) とTSXベンチャー取引所 (TSX-V) という二つの主要な取引所から構成されており、それぞれの市場は企業の成長段階に応じた役割を担っています。
カナダの主要な証券取引所
TSXの代表的な株価指数
カナダのシニア(主要) 株式市場であるトロント証券取引所 (TSX)は、1878年にオンタリオ州の法律に基づき株式会社化されました。実に140年以上の歴史を持つ由緒ある取引所です。
一方、TSXベンチャー取引所 (TSX-V)は、成長段階にある企業、特に資源探査などのベンチャー企業に特化した取引所です。TSX-Vで実績を積んだ企業が成長してTSXにステップアップするというシステムになっています。
ナスダックによる2025年2月時点の統計によると、TSXとTSX-Vの会員会社数と鉱山会社の割合は以下の通りです。
特にTSX-Vでは上場企業の約58%が鉱山会社であり、探鉱段階のジュニア鉱山会社の集積地となっていることがわかります。
トロント証券市場の中核となるのが「S&P トロント60指数」で、カナダを代表する大企業60社で構成されています。この指数とS&P/TSXコンプリーション指数を組み合わせると、S&P/TSXコンポジット指数というカナダの代表的なベンチマーク指数となります。この指数には約250社が含まれ、トロント証券取引所の時価総額全体の約70%を占めています。
S&P/TSX総合指数の総合指数セクター別構成を見ると、金融(32.86%)、エネルギー (16.12%)、そして素材 (12.88%)の3セクターで全体の約62%を占めており、カナダ経済における資源セクターの重要性がわかります。情報技術セクターも10.08%と一定の存在感を示しています。

出典:TSX.com
このように、カナダ経済において鉱業分野は重要な産業となっていることがわかりますが、具体的にどんな鉱山会社が上場しているのでしょうか。
TSXは、上場している企業の種類も、グローバルな鉱山開発や資源生産を行う業界リーダーから成長途上の中堅企業まで多岐にわたります。
2025年3月31日時点のTSX上場鉱山会社トップ20を見てみましょう。
TSX上場鉱山会社トップ20 (2025年3月31日時点)
出典:TSX.com
これらの企業の多くは、TSX以外にもNYSEやNASDAQなどの米国市場にも上場しており、日本の投資家にとっても比較的アクセスしやすくなっています。TSXに上場する企業は金だけでなく、銀、銅、ウラン、レアメタルなど、様々な鉱種を扱っており、資源投資のポートフォリオを多様化させる機会を提供しています。
TSXとTSX-Vの大きな特徴の一つは、鉱山会社の発展段階に応じた柔軟な上場基準を設けていることです。これにより、探鉱段階の企業から生産段階の大手企業まで、様々な成長段階の鉱山会社が上場できる環境が整っています。
TSXとTSX-Vは鉱山会社にとって重要な資金調達の場となっています。直近の資金調達状況を見てみましょう。
マーケットごとの過去5年間における株式資金調達額(10億ドル単単位)

出典:TSX.com
TSX/TSXV (カナダ):43.2億米ドル
ASX(オーストラリア):42.4億米ドル
NYSE/NYSEアメリカン(米国):11.4億米ドル
LSE/AIM (ロンドン):5.9億米ドル
HKEx(香港):4.3億米ドル
これらの図表は、鉱山投資の世界的ハブとしてのカナダの地位を裏付けており、特にジュニア鉱山会社(探鉱段階の小規模企業)にとってTSXとTSX-Vが重要な資金調達の場となっていることを示しています。カナダの証券市場は、世界中の鉱山プロジェクトに資金を提供する重要な役割を果たしていると言えます。
カナダの証券市場の大きな特徴の一つは、企業の発展段階に応じた柔軟な上場基準です。鉱山会社は、探鉱段階から生産段階まで、各成長フェーズに適した市場を選べます。
TSXでは鉱山会社の発展段階に応じて、3つのカテゴリーの上場基準が設けられています。以下に主な上場要件をまとめました。
TSXの上場要件
※ドル表記はカナダドルを意味する。
出典:TSX.com
TSX-Vでは、Tier1とTier2という2つのカテゴリーがあります。
※ドル表記はカナダドルを意味する。
出典:TSX.com
これらの段階的な上場基準により、小規模な探鉱企業でも比較的容易に資本市場にアクセスでき、成長に伴ってTier2からTier1へ、さらにはTSX-VからTSXへとステップアップしていくパスが明確に示されています。
TSXに上場している大手鉱山会社の多くは、米国市場(NYSEやNASDAQなど) にも重複上場しています。アメリカのオンライン証券会社 (日本語サポート有り)を利用すれば、カナダのS&P トロント60指数の構成銘柄に安価に投資できます。取引単位の制限がなく、1株から自由に売買でき、空売りやオプション取引も可能です。
以下の日本国内の主要ネット証券でも、米国市場に上場している銘柄であれば比較的簡単に購入できます。
例えば、バリック・ゴールド(GOLD)、ニューモント (NEM)、ティエック・リソーシズ (TECK) などの大手企業は、日本の証券会社を通じて米国株として購入可能です。楽天証券では、米国株約1万銘柄の中にカナダ企業も200社以上含まれています (2024年時点)。
一方、TSXベンチャー取引所 (TSX-V) に上場しているジュニア鉱山株の多くは、米国市場に上場しておらず、日本の証券会社からは直接購入できません。こうした企業に投資するには、海外の証券口座を開設する必要があります。
カナダ株の取り扱いがある代表的な海外証券会社としては、
などが挙げられます。
特にIB証券は、手数料が安く、取扱銘柄が幅広く、オンラインで完結するため、日本人投資家にとって利便性が高いとされています。TSX-Vに上場する探鉱段階の小規模企業 (ジュニア企業)への投資には、こうした海外証券会社の口座開設が必須となります。
IB証券の詳しい利用方法に関しては、下記の記事を参照にしてください。
カナダの鉱山株へ幅広く投資するならインタラクティブ・ブローカーズ証券がおすすめの理由
TSXとTSX-Vは、世界中の鉱山会社が集まり、成長ステージに応じた資金調達が可能な、カナダ独自の二層構造の証券市場です。TSXには大手鉱山会社が上場し、投資家にとって安定した資源株の投資先となっています。一方、TSX-Vは探鉱段階の企業が多く、ハイリスク・ハイリターンの投資機会を提供します。
上場企業数、鉱山会社の割合、資金調達額のいずれにおいても、カナダの証券市場は鉱業分野で世界をリードしています。鉱山株に関心があるなら、この2つの市場構造を理解することが、確かな投資判断への出発点となるでしょう。
次回の記事では、カナダの代表的な鉱山会社とジュニア鉱山会社の関係について、さらに掘り下げて解説します。
【出典】
JOGMEC カナダ市場と鉱業の特徴
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://mric.jogmec.go.jp/wp-content/old_uploads/reports/resources-report/2007-07/MRv37n2-07.pdf
Nasdaq Top 5 Canadian Mining Stocks This Week: Foremost Clean Energy Powers 133 Percent Gain
https://www.nasdaq.com/articles/top-5-canadian-mining-stocks-week-foremost-clean-energy-powers-133-percent-gain
TMX Capitalize on Opportunity
https://www.tsx.com/en/listings/listing-with-us
TMX 2025 Guide to Listing
https://www.tsx.com/ebooks/en/2025-guide-to-listing/
TMX S&P/TSX Composite Index
https://www.tmxinfoservices.com/benchmarks-and-indices/sp-tsx-indices?indexinfo=%5ETSX#tsx
【免責事項】
本書は情報提供のみを目的としており、事業計画や投資における専門家による財務・法務アドバイスの代替として使用すべきではありません。
本書に含まれる予測が特定の結果や成果につながることを保証するものではなく、記事の内容に基づいて全体的または部分的に行われた投資判断やその他の行動について、当メディアは一切の責任を負いません。