金に続いて、銀価格も大きく上昇しています。ニューヨーク先物は1トロイオンス=39ドル台に乗せ、2011年以来14年ぶりの高値を記録しました。金が史上最高値を更新するなか、代替資産としての魅力や米国の関税政策への警戒感が投資資金を呼び込み、銀市場にも熱気が広がっています。
銀は古代から通貨や装飾品として利用されてきた歴史を持ち、現代では太陽光パネルや電気自動車など新しい産業を支える金属として注目度を増しています。本記事では、銀価格が高値を更新した背景に加え、その特性と需要構造、さらに今後の課題や市場の見通しについて解説します。
2025年7月、銀価格は国際指標であるニューヨーク先物が1トロイオンス=39.5ドル台まで上昇し、2011年以来およそ14年ぶりの高値をつけました。直近のチャートでは、4月に金価格が3500ドルを突破して史上最高値を更新した流れを受け、銀にも投資資金が波及。夏場にかけて急速に値を切り上げています。
2011年には49ドル超、1980年には50ドル超の史上最高値をつけた歴史もあり、割安感の強い現在の水準からは再び50ドル突破への期待も高まっています。
銀価格の推移

出典:三菱マテリアル
銀価格が高騰した背景には、複数の構造的要因が絡み合っています。具体的な要因としては、
といった点が挙げられます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
米国安全保障局(BIS)は2025年3月に銅の輸入に対する232条調査を開始し、トランプ氏は同年7月9日に50%の追加関税を課す意向を示しました。この発表を受け、銀価格にも上昇圧力がかかりました。
Investing.comによると、世界の銀生産の約70〜80%は他の金属採掘の副産物で、そのうち20〜25%が銅鉱山由来です。関税強化は銅価格を押し上げ、流通制約による供給減懸念から、銀の副産物供給も減少する見通しです。さらに銅高はインフレ懸念や代替資産需要を刺激し、投資資金が銀に流れ込む要因となっています。
世界的な脱炭素の流れを背景に、銀の需要は「グリーンエコノミー」によって大きく押し上げられています。国際銀協会(Silver Institute)によれば、2025年には産業用加工量が史上初めて7億オンスを突破する見通しで、特に太陽光発電設備の需要は過去最高を更新すると予測されています。
太陽光パネルの製造では、銀ペーストが電極部分に使用され、電気を効率的に伝導させる役割を担います。しかしリサイクル回収は技術的・経済的に難しく、一次供給への依存が続いています。国際貴金属協会(IPMI)のデータによれば、2021年の太陽光発電向け銀ペースト消費量は世界全体で3478トン、そのうち約91%にあたる3174トンを中国が占めており、2024年までに中国の消費量は2倍以上に拡大しました。現在、中国では銀ペースト需要の85%以上が太陽光発電産業によるものです。
さらに、自動車の電動化(EV)やAI家電の普及、酸化エチレンなど化学分野でも需要は拡大しており、こうした動きが銀相場の上昇を下支えしています。
ゴールド・シルバーレシオ(GSR)は、金1オンスの価格が銀何オンス分に相当するかを示す指標で、数値が高いほど銀が金に比べて割安であることを意味します。
ゴールド・シルバーレシオの5年チャート

出典:macrotrends
過去数年の推移を見ると、2020年は75、2021年には67まで低下しましたが、2022年半ばには95まで上昇。その後2024年前半は77程度だったものの、同年後半には100に達し、2025年も85以上を維持しています。これは金価格の上昇に銀価格が追いつかず、相対的に銀が割安になっている状況を示します。
こうした高水準のGSRは、銀が割安資産として見られやすく、投資需要を呼び込みやすい局面です。足元の銀価格上昇の背景には、この「割安感」を狙った投資資金の流入も影響していると考えられます。
銀は6000年以上にわたり貴金属として認識され、紀元前700年には通貨として初めて使用されました。古代から現代まで、ほぼすべての文化圏で交易金属として重要な役割を果たしてきました。
物理的特性として、銀は全金属中で最も高い熱伝導率と電気伝導率を持ち、延性・展性にも優れています。この特性から、現代では幅広い分野で利用されています。
主な用途と特徴
出典:王立化学会(Royal Society of Chemistry)
銀の需要構成(2024年推定値/単位100万オンス)
出典:SILVER INSTITUTE Silver Supply and Demand
需要構造では産業用途が全体の約6割を占め、特に電気・電子分野や太陽光発電向け需要が中心です。2024年推定値では産業用が約6億5800万オンスに達し、そのうち太陽光発電向けは約1億6070万オンスを占めています。さらに国際銀境界によると、2025年の太陽光発電向け需要は約1億9570万オンスへ拡大すると見込まれています。
銀市場は魅力的な成長が期待される一方で、いくつかの弱点も抱えています。まず、金と比べて市場規模が小さいため、価格の変動が激しく、急落時には資産価値が大きく損なわれる可能性があります。
次に、供給構造の不安定さです。世界の銀の7〜8割は銅や鉛、亜鉛の副産物として生産されているため、ベースメタルの生産や政策動向に強く左右されます。銅に関税や規制がかかれば、その影響は銀の供給にも及びかねません。
また、リサイクルで需要をまかなうことには限界があります。技術やコストの制約から十分な量を回収できず、逼迫感を和らげる効果は限定的です。さらに需要面では、インドでの価格高騰を背景に宝飾品需要が落ち込んでおり、一部では消費減のリスクも意識されています。
一方で、市場全体の先行きは強気の材料が目立ちます。国際銀協会(Silver Institute)は、2025年も5年連続で大幅な供給不足が続くと予測しています。背景には二つの流れがあります。
ひとつは産業需要の伸びです。いわゆる「グリーンエコノミー」が追い風となり、2025年には産業用銀の消費が初めて7億オンスを超える見込みです。太陽光発電は過去最高を更新し、自動車の電動化やAI家電の普及、化学分野の拡大なども需要を押し上げています。
もうひとつは投資需要の回復です。欧米では投資家が新しい価格水準に慣れ、現物投資は前年より3%増えると見られています。さらに、トランプ大統領の関税政策や地政学リスクといった要因も、リスク回避の動きを通じて銀投資を後押ししています。
宝飾品需要はやや落ち込む見込みですが、産業用と投資用の需要増がそれを補って余りあるため、市場全体では供給不足が続き、価格の上昇圧力が保たれると考えられます。
銀市場は14年ぶりの高値をつけ、改めて投資対象として注目を集めています。産業需要の拡大や投資資金の流入が需給を押し上げる一方で、市場規模の小ささや供給構造の脆弱性といった課題も残されています。
それでも、電気自動車や太陽光発電をはじめとする「グリーンエコノミー」の潮流は強く、今後も銀需要を下支えすると見込まれます。供給不足の継続や投資需要の回復が重なれば、銀価格は過去の高値水準に接近する場面も想定されます。
本記事では、銀の特性や需要構造を踏まえつつ、価格上昇の背景と市場の課題、そして今後の見通しを解説しました。銀は不安定さを抱えながらも、中長期的に注目すべき資産の一つといえるでしょう。
【出典】
The SILVER INSTITUTE Global Silver Market Forecast to Remain in a Sizeable Deficit in 2025
https://silverinstitute.org/global-silver-market-forecast-to-remain-in-a-sizeable-deficit-in-2025/
IPMI Solar panels and the price of silver
https://www.ipmi.org/news/solar-panels-and-price-silver
Investing.com Silver Rally Faces Resistance Despite Copper Tariffs and Supply Chain Strain
https://www.investing.com/analysis/silver-rally-faces-resistance-despite-copper-tariffs-and-supply-chain-strain-200663576
CNA More investors turn to silver even as prices surge, driven by increased industrial demand
https://www.channelnewsasia.com/singapore/silver-gold-prices-soar-investors-safe-haven-assets-5153471#:~:text=Trump%20podcasts%20Wellness-,More%20investors%20turn%20to%20silver%20even%20as%20prices%20surge%2C%20driven,in%20a%20display%20for%20sale.
ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY
https://periodic-table.rsc.org/element/47/silver
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